第一部 起源と聖化
第一章 起源 ― 聖骸紙と最初の受難 ―
Abee教の起源をどこに置くべきかについては、後代の共同体内部でも見解が分かれている。
なお、本書でいう「後代共同体」とは、Abee教成立以後、その起源や教義や事件を語り継いだ後続の信徒・観測者・編纂者たちを広く指す。
また、その内部で特定の史料や象徴に基づいて独自の読みを形成した小集団については、必要に応じて「解釈共同体」と呼ぶ。
後代共同体の内部は、もちろん単一ではない。そこには、失われた正統の回復を志向する保存派、断片や痕跡から新たな意味秩序を立ち上げようとする改革派、出来事をできるだけ史料的に整理しようとする編纂派、さらには半ば戯画化された熱狂を楽しみつつ参与する観測者的周縁層まで、複数の温度差をもった立場が併存していたと考えられる。
もっとも、これらの区分は後から整理された理念型にすぎず、初期段階においては、一人の内部者が保存派的感情と改革派的衝動と観測者的態度を同時に抱えていた場合も少なくなかった。そのため本書でいう「共同体内部」とは、統一された教団組織を意味するのではなく、同じ遺物や同じ不在に引き寄せられながら、それぞれ異なる仕方で意味を付与していった緩やかな解釈の集積を指す。
ある者は、未来創造館の竣工をもって実質的な創始とみなす。
またある者は、御神体が初めて仮設筐体として成立した時点を重視する。
さらに厳密な立場を取る論者の中には、焼失とその後の再解釈を経てはじめて宗教史としての輪郭が整ったのであり、それ以前は単なる偏執的趣味の範囲を出ていなかったとする者もいる。
しかし、本書の立場から言えば、Abee教の起源はもっと小さく、もっと不安定で、しかも決定的な一点に求められる。
すなわち、後に聖骸紙と呼ばれることになる、ある種の残余の出現である。
ここでいう聖骸紙とは、後代においてAbee教共同体の最初の遺物、あるいは最初の痕跡と位置づけられる純正段ボールを指す。
もっとも、この段階ではまだ、それは宗教的中心そのものではない。
むしろ重要なのは、完成された器そのものではなく、それを包んでいた紙の側から宗教史が始まるという倒錯である。
さらに、聖骸紙信仰の成立において決定的だったのは、段ボール自体の質感だけではない。
その内部には、封筒に収められたAbee由来の紙文書、すなわち保証書が同封されていた。
後代共同体にとって重要だったのは、この構造である。
段ボールは単なる外装ではなく、由来を証する紙を内に抱えた紙であった。
そのため聖骸紙は、ただの残余ではなく、正統を記した文書を守る外殻として、より強い神聖性を帯びることになった。
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